【魔改造?】三菱ジープの3速ミッションをローギアード化する

T90C Transmission Conversion

この記事は、三菱ジープJ3RのKM4J形3速ミッションのギアを組み替えてローギアード化をしたという内容になっています。

こちらの記事でざっくり解説と本記事の前振りをしました。

今回は米国のT90トランスミッションを日本でライセンス生産製造したミッション、KM4J形トランスミッションを使います。三菱ジープJ3R後期型の3速ミッションです。

ジープのローギアード化と言うと極低速でのロック・クローリングを目的とした魔改造だと認識されがちです。しかし、KM4J形トランスミッションのルーツを米国まで遡って当時の背景を知ると、また違った目的があったことを知ることができます。

目次

前提

今回は仮組みまで行いましたが、走行テストによる確認をしておりません。不確かな情報が含まれている点についてご了承ください。

また、記事は前半部分と後半部分に分かれています。

前半では自分なりに理解した歴史的な背景について大きな流れを概要レベルでまとめています。ローギアード化が可能な背景を理解するために、エンジンや最終減速比の話題にも触れていきます。寄り道が多くなりますが、ご容赦ください。当時のジープを取り巻く時代背景を想像しながら記事を楽しんで頂けたら嬉しく思います。

後半部分は技術的、実践的な視点で解説しています。しかし、前述の通りまだ実際の走行テストをしていませんので、誤った情報が含まれているかもしれません。それでも当サイトを応援して頂ける方に見て頂ければと思ったので有料記事(\300)としました。

それでは早速始めましょう!

T90トランスミッションのバリエーションについて

はじめに、三菱ジープのKM4J形トランスミッションのルーツである米国ボルグ・ワーナー社のT90トランスミッションのバリエーションについてです。

米国では、ジープは軍用だけではなく農業用や余暇を楽しむための車としてピックアップトラックやステーションワゴンが展開されていました。多様な車格やレイアウトに合わせてT90トランスミッションには2種類の異なるギア比と3種類のメジャーなバリエーションが存在することになります。
米国ではそれらの部品を組み合わせて改造する手法があることが以前から知られています。

それぞれのバリエーションを軸に、歴史を少し深掘りしていきしょう。

T90A

ここではショートホイールベースジープのT90トランスミッションに着目します。

1945年からCJ-2Aに供給が始まり、CJ-3A、M38、M38A1、M606、CJ-3Bにも搭載されたのが”T90A”です。
 ※ピックアップトラックやステーションワゴンにも搭載されましたがここでは割愛します。
T90Aは、L-134、F-134エンジンと組み合わされて最終減速(ディファレンシャル)比は5.375に設定されていました。

1速2.798
2速1.551
3速1.000
後退3.798
T90Aトランスミッションの変速比

日本でジープのノックダウン生産が開始

この時、日本でジープのノックダウン生産が開始されます。本流を遡ると三菱ジープのKM系3速トランスミッションは、このT90Aだったと言えます。

本流の進化

この章では、T90トランスミッションのギア比が変更される一つの要因となったエンジンの変移について触れます。

F-134エンジンの圧縮比設定

米国では、F-134エンジンのオプション設定として「ハイ・アルティチュード」(高地)仕様がありました。
標準仕様よりも高出力化を狙ってエンジン圧縮比がより高く設定されます。
標準仕様が6.8:1、ハイ・アルティチュードは運転する標高によって圧縮比を選択することができて、7.4:1、または、7.8:1の設定がありました。また、キャブレターのセッティングも高地仕様だったようです。
その他に、圧縮比が標準仕様よりも低い6.48:1の輸出用の仕様も存在しました。

標準仕様F-134エンジンの高出力化

1961年頃、ハイ・アルティチュード仕様だった高圧縮比のF-134エンジンが標準仕様になりました。

その翌年1962年の後半、ウィリス・オーバーランド社がディーラーと販売店に向けたある通知をします。
最終減速比とトランスミッションの変速比を変更するという内容でした。

  • 最終減速比
     変更前:5.375:1
     変更後:4.27:1
  • トランスミッション1速の変速比 ※実際には2速の変速比も変更されています。
     変更前:2.79
     変更後:3.339

標準仕様のF-134エンジンが高出力化され、多少の高速性能の向上が見込めるようになったと判断した結果、最終減速比が20.5%高速向けに変更されたと考えられます。
最終減速比の高速化と併せて、T90Aの1速と2速のギア比を20%程度低速化することによって、発進・加速・けん引性能を犠牲にすることなく、トップギア(3速)を直結1:1のままにすることで総合減速比が高速向けになります。最小限の変更によって高速性能の向上を実現したと考えるのが妥当です。

この1速、2速、後退が低速化されたバリエーションが”T90C“と呼ばれています。

T90C

T90Cは、1963年からCJ-3B、CJ-5、CJ-6などに搭載されました。
高出力化されたF-134エンジンと4.27:1の最終減速比と組み合わせられます。トップギア(3速)の変速比はT90Aと同じ1:1のまま最終減速比によって高速化され、1速と2速、および、後退はT90Cで低速化されたことで最終減速比での高速化(-20.5%)が相殺されていることが分かります。

T90C vs. T90A

T90CT90A増減比
1速3.3392.798+19.33%
2速1.8511.551+19.34%
3速1.0001.000±0%
後退4.5313.798+19.29%
T90AとT90C 変速比の比較

その他のバリエーション

その他にT90EとT90Jと呼ばれるバリエーションが存在しました。この記事では割愛します。

亜流

日本国内に目を移すと、三菱ジープにおいても米国のF-134エンジンとT90トランスミッションと同じような変遷がありました。

純国産化されたF-134エンジンであるJH4は、高圧縮化(7.4:1)による高出力化が行われ、後期型JH4と呼ばれます。

三菱ジープの3速ミッションにおいては、変速比が変更されることはありませんでしたが、その後、前進4段のトランスミッションが搭載された時に、1速がT90Cとほぼ同じものが存在します。

最終減速比についても高速化されましたが、ずっと後のJ53になってからでした。

三菱ジープが独自の流れで変遷していったことはとても興味深いところです。

KM4J vs. T90C

米国のT90Aから枝分かれした後に更にいくつかの世代を経た日本のKM4Jですが、T90Cと同じようなギア比の変更が行われることはありませんでした。

KM4JとT90C、どちらもT90Aの子孫と言えます。米国ではT90AをT90Cにコンバージョンする実績があり、KM4Jが元々はT90Aなのであれば、KM4JもT90Cコンバージョンができるのではないか、と考えたのが今回このローギアード化をやってみようと思ったきっかけです。

ギアに違いがあることは簡単に想像できました。しかし、ケースについては違いが分かる資料などが無かったため、実際に自分でやってみるしかありませんでした。
ケースに関して先に結論を言うと、メンテナンス性を犠牲にすればそのまま組み立てることは出来るかもしれません。ですが、メンテナンス性が犠牲になる改造が個人的に好きではないので、ケースにも加工をしました。
結構大変でしたが、やってる感を出すためにも色々やって良かったと感じています。
重要な点としては、それぞれのオイル潤滑の考え方の違いです。これについては記事の後半部分に詳しく書きます。

前半まとめ

正直なところ初めはT90Cの部品を買って組み立てるだけで済むと楽観的に考えていました。すぐに出来ると高を括っていましが、”そうは問屋が卸さない”とはこのことです。笑

何度も組んでは分解してというのを繰り返しながら仮組みをすることができました。ミッション単体でインプット・シャフトを回転させた感触もシフトも良い感じです。
スリーダイヤのキャスティングがされたケースに収まるT90CとKM4Jのギアを見てニヤけています。

KM4Cアッセンブリ

結論&まとめ

KMはT90Aで、かつ、T90AをT90Cにコンバージョンできるなら、KMもT90Cにコンバージョンできる

という今回のキッカケになった安直な三段論法は結構正しかった、と言うことができそうなのが今の段階です。

そして、この記事のタイトルの”三菱ジープのKM4Jをローギアード化する”と言っているのは、KM4Jの部品を可能な限り使ってT90Cへのコンバージョンをすること、また、前振りしていた”三菱ジープの3速トランスミッションKM4Jのルーツは何だったのだろうか”という点についての回答はT90Aだった、ということになります。

このような遊びが出来るのは三菱ジープの面白いところであり、この趣味の美しいところの一つだと改めて感じています。

T90Cと同じギア比に改造されたKM4J形トランスミッションを、当サイトでは便宜的に”KM4C”と呼ぶことにしました。笑

これから

このミッションは、もう一度分解してケースやギアなどの各部品の錆びを落とし、塗装をして新品のベアリングなどを使って細かい調整や仕上げをします。いずれテスト走行をしたいと思います。

KM4Jを全力で楽しむ“企画(なにそれ)第一弾の前半部分はここまでです!

第二弾は、このKM4Cに組み合わせるための三菱ジープのトランスファーの改造に挑戦したいと思います。
ローギアキット製品は使わない、ちょっと”斜め上”の改造に挑戦するつもりです。今回と同様にやってみないとわからないところばかりですが、機会を見つけて記事にしたいと思っています。また読んで頂けると嬉しいです。

前半は以上です!読んで頂きありがとうございました!

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この記事を書いた人

ジープ・軍用車専門レストアショップに勤めたあとIT業界へ転職。三菱ジープJ3R(不動)、J54A(不動)を所有。ジープ・JKラングラー・アンリミテッド・ルビコンでJeepライフ復帰。 東京在住。千葉拠点でのリモートワークやガレージライフについて情報発信しています。

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